統計多様体上のアインシュタイン方程式を考える.実は,これから解説するように,統計多様体の上で物質場をスカラー場としたときのアインシュタイン方程式が成り立つことが知られている.この事実は,純粋な数学理論であるはずの情報幾何と,現実世界の物理法則を記述する一般相対論の間に意外な接点を見い出せることを示している.
1. リーマン・カルタン時空
1−1. 座標と計量
時空の線素を次の式で定義する.
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アインシュタインの等価原理によれば,この計量
によって記述される時空多様体の接空間は,特殊相対論が成り立つミンコフスキー時空である.この平らなミンコフスキー時空の計量を
と書き,一般のD次元時空を念頭に
(2) 
と書くことにする.
1−2. 接続と捩率
次に,共変ベクトル
および反変ベクトル
の平行移動を次の式で書くことにする.
(3) 
ここから,その共変微分が導かれる.
(4) 
このとき,計量の共変発散について
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を要請する.これを計量条件と呼ぶ.時空に計量条件を課す(=リーマン時空)ことにより,アインシュタイン方程式
の右辺にあるエネルギー・運動量テンソル
が保存量になることが導かれる.さらにここでアファイン接続
に関する対称化,反対称化の記号を
(6) ![Rendered by QuickLaTeX.com \begin{eqnarray*} & \displaystyle \Gamma^{\rho\ \ }_{\ (\mu\nu)} \equiv \frac{1}{2}\left(\Gamma^{\rho\ \ }_{\ \mu\nu}+\Gamma^{\rho\ \ }_{\ \nu\mu}\right) \\& \displaystyle \Gamma^{\rho\ \ }_{\ [\mu\nu]} \equiv \frac{1}{2}\left(\Gamma^{\rho\ }_{\ \mu\nu}-\Gamma^{\rho\ \ }_{\ \nu\mu}\right) \end{eqnarray*}](https://i0.wp.com/hayashiyus.jp/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-74db0316d79bf7df931a03149b1846ce_l3.png?resize=197%2C83&ssl=1)
とすると,これを使って捩率を次のように定義することができる.
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捩率が
でないときは,その時空上ではベクトルの平行移動によって平行四辺形が作れないことを意味する.
1−3. 四脚場表示
曲率と捩率が共存するとき,アインシュタインテンソル
の共変発散をとると
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となって一般には
にならない.このままでは,アインシュタイン方程式
の右辺にあるエネルギー・運動量テンソル
が非保存量となってしまい具合が悪い.そこで,このような時空(=リーマン・カルタン時空)上でのアインシュタイン方程式を考えるため,四脚場
を導入する.
(9) 
四脚場は,計量テンソルの平方根とみなせる.
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また,四脚場は,局所ローレンツ変換に対しては反変ベクトルとして変換され,一般座標変換に対しては共変ベクトルとして変換される量である.これは物理的には,時空の各点における接空間(=局所ローレンツ系)において定義されるスピノル場と,曲がった時空(=一般座標系)を結びつける役割を果たす.この四脚場を使って,物質場がスピノル場を含む場合のアインシュタイン方程式を導出しよう.まず,物質場にスピノル場を含む場合の全ラグランジアン
を次式で与える.
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このとき全ラグランジアンに対する四脚場のオイラー微分は
(12) 
となるので,捩率が存在する場合に一般化されたアインシュタイン方程式は次のようになることがわかる.
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四脚場
は,局所ローレンツ系における平行移動にも,一般座標系における平行移動にも,それぞれ共変ベクトルのように振る舞う。四脚場のこの性質に注目して,それぞれの座標変換にかかる四脚場の不変性を要請する新しい共変微分(=全共変微分)
を以下で定義する.
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このとき,計量の共変発散が
となる(ように,スピン接続
を定める).
(15) 
このように全共変微分を定めると,アインシュタインテンソルの共変発散について次が導かれる.
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